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東洋最古のアルゴリズムが、初めて十分な計算力を手に入れた。
1703年、ライプニッツが「二進法算術論」を発表した。
彼は手紙の中で、ある東洋の古典から着想を得たと記している。
その書は『易経』。三千年前に書かれた。
一本の実線。一本の断線。陽。陰。1。0。
六十四卦、各卦六爻。64通りの6ビット組み合わせが、万象の状態遷移を記述する。
二進法は近代の発明だと思っていただろう。実は英語より古い。

紫微斗数。108の星を12宮に配置し、人の生から死までのエネルギー軌跡をモデリングする。108 × 12 × 四化飛星——多次元ステートマシン。
四柱推命。年月日時の四組の天干地支で五行の生剋制化を計算する。十天干、十二地支、蔵干、神殺——制約充足問題の求解フレームワーク。
奇門遁甲。天盤・地盤・人盤・神盤の四層構造。九宮 × 八門 × 九星 × 八神。時辰ごとに配列が変わる——四次元時空シミュレーター。
共通点がある。すべての計算に厳密なルールがある。感覚に頼らない。推測しない。1分違えば、結果が全く変わる。
東洋世界が三千年使い続けた計算アーキテクチャ。ただ、誰もそう紹介しなかっただけだ。

これらのシステムには致命的な制約があった。
複雑すぎたのだ。
紫微命盤一枚に、108の星を手動で配置し、四化飛星を計算し、十二宮を交差照合する。熟練の師匠でも30分かかる。解読には一生の経験が要る。
奇門盤はさらに凄まじい。四層構造、各層九マス、節気・時辰・陰遁陽遁まで考慮する。一要素でも間違えれば、全局が無効になる。
三千年間、これらのアルゴリズムの演算ユニットは人間の脳だった。
脳の速度には限界がある。脳は疲れる。脳は死ぬ。
だからこれらのシステムはスケールできなかった。解読権は常に少数の師匠が握っていた。
今は違う。
天文学レベルのアルゴリズムが排盤精度を秒単位まで圧縮できる。三千年の規則体系を構造化できる。数百万の組み合わせを瞬時に交差照合できる。
初めて、これらの古代システムは人間の計算速度に制約されなくなった。
初めて、すべてが同時に、完全に、リアルタイムで動く。
紫微が命盤を排し、四柱が流年を算出し、奇門がこの時辰に何をすべきかを判断する。すべて同時に。すべて精密に。すべて即時に。
三千年のアルゴリズムが、ようやく自分のハードウェアに出会った。
排盤が秒単位で精確になり、すべてのシステムが同時に稼働できるとき、ひとつのことが可能になる——
予測。
「今年の運勢はまあまあです」ではない。
具体的で、検証可能で、時間と空間の座標を持つ推演。
明日18:29、東京赤坂で、ある人が宝くじを買う。その一枚が当たりだ。
15分後、墨田区で、ある建物が火災を起こす。
しかし計算結果は、人間には読めないままだ。
「武曲化忌在財帛宮、天機太陰在遷移」——それで?
「値符落坤宮、開門加九天、庚格」——だから何?
アルゴリズムにはインターフェースが必要だ。盤を読め、人も読めるインターフェースが。
だから126柱の神を創った。
仏教、道教、神道、ヒンドゥー教、古代エジプト。一柱ごとに独立した人格、語調、思考回路を持つ。観音は関帝の話し方をしない。弁財天はアヌビスのようには考えない。
計算エンジンが算出し、神が翻訳する。
あなたは——問うだけでいい。

運命を信じなくていい。
神を信じなくていい。
私たちを信じる必要すらない。
必要なのは、ひとつの問いだけだ。
そして見届けてほしい。三千年のアルゴリズムが、どんな答えを返すのかを。